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東京地方裁判所 昭和39年(ヨ)4906号 決定 1965年3月30日

債権者

日活株式会社

株式会社丸源製鋸所

右両名代理人

伊藤信男

債務者

日本電信電話公社

右代理人

新宮賢蔵

外二名

主文

本件申立をいずれも却下する。

訴訟費用のうち昭和三九年(ヨ)第四、九〇六号事件に関するものは、債権者日活株式会社の、同年(ヨ)第四、九二〇号事件に関するものは、債権者株式会社丸源製鋸所の各負担とする。

理由

債権者両名の本件申請の要旨は、おおむね次の如くである。

債権者日活株式会社(以下単に日活と言う)は、昭和二九年に、債権者株式会社丸源製鋸所(以下単に丸源と言う)は昭和三一年に、それぞれ債務者から別紙目録記載の電話(以下本件電話と総称する)加入を認められてその電話加入権を取得し現在に至つている。

日活は調布市内に撮影所を設けて映画製作事業を経営しており、また丸源は同市内に於て各種鋸製造販売等を経営していて、いずれも他局特に東京都内各局との間に頻繁な通話を必要とする業態であるが、本件電話架設当時、調布市所在の調布電話局と他局との間の通話は市外扱いとされ、一々電話局の交換を経なければならず、極めて不利不便であつたので、債務者に対して公衆電気通信法(以下単に法と言う)二九条四項但書の規定に基づく電話(以下他局加入電話と言う)の架設を再三に亘つて陳情した結果、特に必要のあることが認められ、その頃債務者の定めた多額の料金(架設諸費用)を支払つて本件電話を特設されたものであり、右架設に際して債務者から特別の条件や制限を附せられたことは全くない。

しかるに債務者は債権者等に対し、昭和三八年一二月二回に亘り、昭和三九年一月を期限として本件電話を調布局に収容替する旨通告して来た。その後債権者等の陳情懇請によつて、右期限は同年六月二八日まで延期されたが、収容替の計画は放棄されない。

債務者は、右収容替の理由として、本件電話加入を承諾した当時認められた法二九条四項但書所定の要件に該当する諸事情が既に消滅したと言うのであるが、右は債務者の独断に過ぎない。調布局の電話が本件電話架設当時よりも若干の点に於て改良されたことは債権者等も認めるが、なお本件電話が調布局に収容替されたとすれば、債権者等としては次のような不利益を受ける。

即ち、自家用電話使用の場合に料金が著増することは勿論、東京都内の公衆電話(赤電話)から調布局の電話に通話するときは、一々電話設置者の手を煩わす必要があるから、その利用が極めて困難となり、事実上不可能となる場合さえ少くない。また調布局加入電話と東京市内局以外の地方局加入電話間の通話は、即時通話になつたとは言え、一〇三番を経由する必要があるのであり、右電話は話し中のことが多いから早急の間に合わない。

日活としては、その業態上都内赤電話をもつて緊急の連絡を必要とすることが極めて多いのに、その利用が困難ないし不可能な現状で収容替を強行されては、料金の激増と相俟つて映画製作事業は半ば麻痺状態に陥る危険があり、また丸源としても、大阪、名古屋、久留米等の各地に出張所を設け、全国各地に六十有余の特約代理店を擁し、都内に大半の得意先を有している現状からして、収容替によつて通話が不便になるならば、本件電話加入により廃止し得た東京の出張所を、各地間の連絡のために復活せざるを得なくなり、経費増による経営上の困難が漸増しつつある折柄、料金の激増と相俟つて到底堪えられない負担となる。

右の通り本件電話加入を認められた当時の諸事情のうち最も重要なものはなお残存しているばかりでなく、もともと電話加入契約は、法および規則の定めるところに従い、申込者の加入契約加入申込と、これに対する債務者の承諾の意思表示の合致によつて成立する私法上の附合契約であり、電話加入権は右契約に基づいて設置された加入電話によつて、加入電話加入者が債務者から公衆電気通信役務の提供を受け得る権利の総体を言うものであつて、私法上の権利として一の財産権である。従つて法及び規則に明文の規定がある場合のほかは、債務者の一方的な処分によつて加入者からこの権利を奪うことはできない筈であり、このことは債権者等のような他局加入電話加入者の地位についても同様であるから、債務者が債権者等に対して一旦他局加入電話の加入を認めた以上、債権者等の地位は一つの既得権として保護されなければならない。そして他局加入電話に関しては法および規則にこれを取消し得る旨の明文の規定がないのであるから、加入権者たる債権者等の同意なくして債務者が一方的に本件電話を調布局に収容替することは違法である。

以上の次第で、債権者等は本件電話加入権を有するものであるが、もし債務者の強行手段によつて前記収容替その他の処分がなされるときは、債権者等の蒙る損害は甚大であり、本案判決で、勝訴しても回復不能となる虞があるので、右権利保全のため、債務者に対し、本件電話の他局変更その他本件電話による債権者等の通話を妨害する行為を禁止する旨の仮処分命令を求める。

そこで以下債権者等の主張の当否を判断する。

債務者公社は、日本電信電話公社法に基づいて設立された公法人であつて、請学上公企業と呼ばれる事業体であるが、その経営する公衆電気通信事業の一つとしてなされる加入電話加入契約に基づく電話利用関係は、加入電話加入者が公社から加入電話の設置を受けて、電話通信役務の提供を受ける関係であつて、企業主体は公法人であるけれども、債務者の業務は公権力の行使などとは自ら性質の異るものであり、私営事業の企業者と利用者間の自由意思の合致によつて成立する私法上の契約関係とその本質を同じくするものであり、ただ電話通信事業の公益性の故に、その利用関係の成立、内容等に関しては、法その他の法規によつて画一的な定めがあり、当事者特に加入申込者側の自由意思の働く余地がほとんどないように制限されているに過ぎない一種の附合契約と解されるから、原則として私法的な規律によつて支配される法律関係と認めるのが相当である。従つて債務者としては、一旦電話加入を承諾した以上、その契約約款と目される法その他の法規に基づいてこれを取消し変更するなら格別、法規の根拠なしに加入者に対して恣意な取扱いをすることは許されないものであり、この限りで債権者等主張のように電話加入権が財産権の一つであることは言うまでもなく、この理は、他局加入電話加入者の地位に関しても異なるものとは解されない。

そこで、次に法令上債務者が他局加入電話の取扱いを廃止して、当該電話を、その設置場所を普通加入区域とする他の電話局に収容替することが許されているか否かについて検討してみるに、法二九条四項但書には、業務の遂行上支障がなく、かつ特に必要があると認められる場合に、他局加入の取扱いをしても差支えない旨規定するのみで、同法及びこれに基づく電信電話営業規則その他の法令にも他局加入取扱いの廃止に関する明文の規定は見当らない。

しかしながら、もともと公衆電気通信事業は、社会公共の利益と密接に結びついているからこそ、私人の自由意思に基づく契約に委ねるのは不適当であるとして、特別立法により企業者として債務者などの公法人を設立すると共に、法その他の法規によつてその利用関係を画一的に定め、電気通信役務を国民にあまねく公平に提供して公共の福祉を増進することを図つたものであり、債務者は右役務の提供について公平な取扱いをなすべき法律上の義務を負い、同一条件の加入者には同一条件で施設を利用させることが法律上要請されているのであり、債務者の強度な公共的地位に鑑み、法は電話利用関係について、公共の福祉と個々の加入者の利害の調整を図つているわけであるが、債務者の企業目的達成に必要な限度では、電話利用関係の変更など債務者の一方的な措置を認め、加入者に対し当然のこととしてこれによる不利益の受忍を強制している場合があり、その一つとして、法二九条によれば、電話加入区域内に二以上の電話取扱局があるときは、債務者の指定する局に収容するものとされ、これをうけて電信電話営業規則一八三条、一八四条は、電話取扱局ごとに収容区域を定めると共に、収容区域の設定、変更によつて加入電話の設置場所が他の電話取扱局の収容区域となつたときは、当該電話取扱局にその加入電話を収容替、所属替するものとされ、事情の変更による電話の収容替等による利用者の不利益を当然のこととして、予定しているが、このような取扱いを認めた趣旨に照せば、右の場合と幾分事例を異にする他局加入電話の利用関係についても一定の条件の下に、法は債務者の一方的な収容替の措置を予定しているものと推測することができ、結局他局加入電話加入者たる地位が一つの財産権であるにしても当初から右の制限内で認められる権利としか考えられないし、そのほか他局加入電話はその規定の仕方からみて例外的な取扱いであることが明らかであり、その趣旨は、法定要件を充す如き具体的事情の下に於てはこのような例外的取扱いをすることが結局加入者間の公平に叶うと言う公平取扱の原則の具体的敷衍と解されるから、当該要件にその後事情の変更があつた場合には、一般の例にならつてその設置場所を普通加入区域とする電話局に収容替することが右の原則からみて至当な措置と考えられるなどの点を総合して検討してみると、明文の規定はないけれども、少くとも他局加入電話加入者がその申込をなして他局加入の取扱いを受けた当時、特に必要があるものと認められた事情がその後に至つて消滅し、現在の時点に於ては必要があると認めるに足りない状態になつているか、或はその後の人口分布の変化による電話加入者の増減や、電話局の増設その他の事由による技術的障害などの事情の発生によつて、債務者の業務遂行上支障が生ずるようになつた場合には、当該加入者の同意の有無にかかわらず、法は、債務者が当該他局加入電話を、その設置場所を普通加入区域とする他の電話局に収容替することを、当然のこととして予定しているものと解するのが相当である。蓋し、若し一旦他局加入の取扱いをした以上、当該加入者の同意のない限りこれを変更することができないものとすれば、結果的に他局加入者とその他の加入者との間に著しい差別扱いが生ずることになつたり、公衆電気通信事業の円滑な運営が阻害されることになつたりして、公共の福祉の増進を目的として設立された債務者公社の存在意義が、全く失われることになつて極めて不合理と言うほかないからである。

そこで進んで本件の場合について、右の事情に変更が生じたと言い得るか否かについて検討するに、当事者双方提出の疎明資料並びに本件弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が疎明される。

債権者日活は本社を東京都千代田区に置き調布市内に撮影所を設けて映画製作事業を経営しているが、映画製作のためには全国に散在する映画需要者との間に密接な連絡を保ちつつ、その希望条件を機を逸せず採り入れたり、諸外国の映画関係者との連絡も頻繁に行う必要があり、なおロケーシヨンに必要な気象連絡、エキストラの動員の打合せ等のため本社と撮影所間に常時緊密敏速な連絡を保たなければ映画製作の合理的な運営は不可能であつて、これらの連絡は電話に依存するのが最も便利な方法であり、また債権者丸源は調布市内に於て各種鋸製造販売業を営んでいるが、その販売面に於ては東京出張所を始め大阪、名古屋、久留米等の各地に出張所を設け全国に特約代理店が六十数ケ所あつて、これらとの電話連絡を頻繁にする必要があつたが、調布市を加入区域としていた調布電話局(従前は調布郵便局が電話取扱局となつていた)は昭和三二年三月に自動化されるまでは、磁石式電話局であり、他局への通話は全て市外扱いされていて、通話には一々電話局の交換を経由する必要があり、かつ若干の待合時間が必要であつたため、債権者等はいずれもその業務に支障を生じていたので債務者に対して他局加入電話の架設を申込んだところ、債務者は、債権者等の事情がいずれも法二九条四項但書所定の特に必要とする場合に該るものと認められ、かつ当時東京市内砧電話局に加入者を収容する余力があつたので右申込を承諾し、日活に対しては昭和二九年頃、丸源に対しては昭和三一年頃に、それぞれ別に定める架設料等を支払わせて本件電話を架設し引続き現在に至つている。ところがその後前記の通り調布局は自動局となり、対東京市内局通話はダイヤル直通となると共に、引続いて右以外の市外通話サービスも順次改善され、現在では調布局から東京市内局以外の地方局に通話する場合にも全国主要都市の大部分が即時通話し得るようになり、東京市内局との違いは、地方局へ通話する場合に一応一〇三番の交換台を経由する必要があること、都内の公衆電話から調布局へ通話する電話には公衆電話設置者の手を煩わす必要があること、料金の計算方法が時間制となつているため、長時間通話する場合に料金額が高くなることの三点に尽きるようになつた。

一方債務者公社に於ては、電話加入申込者の増加に伴う設置拡充計画の下に電話施設の建設や保守の能率化を図つて昭和三九年度から全国的に電話線の規格を、鉄管路内径七五ミリ、地下ケーブル外径七三ミリ、心線直径〇、三二ミリ、標準三、六〇〇回線のものに統一化しつつあるが、債権者等の本件他局加入電話は、これを収容している砧局から遠距離にあるため、右規格品によつたのでは線路抵抗が大き過ぎて通話の明瞭度を欠くため、規格外の〇、六五ミリの太い心線を用いなければならず、そのため、一管路の収容数は一、〇〇〇回線に止まり、標準に比して二、六〇〇回線分だけ少く、その分だけ砧局の普通加入区域内の加入申込者の需要を充し得ないでおり、また近時の東京近郊の交通の輻輳に伴い、所管の砧電話局から遠距離にある本件電話を含む他局加入電話の保守が幾分困難となつて来た事情にある。

右認定の事実、殊に調布電話局から全国主要都市に即時通話し得るようになつたことにより、債権者等が本件他局加入電話加入申込みの理由として主張している、債権者等のそれぞれ本社と出張所間等の連絡、特に調布局から東京市内局への通話の不利不便は、もはやほとんど解消したと言うに足るのであり、その他調布局と東京市内局との相違のうち、調布局から東京市内局以外の局に通話する場合に一〇三番を経由する必要があることは、忍ぶ能わざる不便と言うほどのものではないように思われ、また都内公衆電話から調布局に通話する場合に電話設置者の手を煩わす必要のあることも、もともと本件電話加入申込の理由とはなつていなかつたように見受けられるばかりか丸源について言えば、その主張自体に照しても営業に支障を生ずるような重要な事情とは考えられず、日活の場合についても、僅かに夜間都内の屋外ロケーシヨン等に於て直接撮影所に連絡する必要の生じたとき等に幾分不便な場合があろうかと推測できるくらいで、その映画製作事業に及ぼす影響の程度については、充分の疎明がないばかりか、日活は都内千代田区に本社を有するのであるから、必要によつては本社を通じて連絡する方法も考えられることも斟酌すると、これまた営業上忍び難い不便と認めるほどのものではないように思われるから(なお通話時間によつて料金が高くなる点は、本件電話加入申込当時の理由となつていないばかりか、通話の仕方によつても左右されるものであり、かつ電話利用の公平の見地から考えると、債権者等に一種の既得権を認め、他の調布局加入者との間に差別扱いをする結果を生ぜしめるのは不当であるから、本件の場合には寧ろ事情として斟酌すべきでないと解する)、本件電話加入申込当時、債権者等に他局加入の必要があると認められた事情は既に消滅していると認めるのが相当である。

してみると、債務者が、予め債権者等のために相当の予告期間をおいた上、本件電話を、法二九条四項本文に従つて調布局に収容替、所属替の措置をとることは適法な行為と認めるべきであつて、債権者等には、これを阻止する被保全権利が認められないから、その余の点について判断するまでもなく本件申立は理由がない。

よつて主文の通り決定する。(桑原正憲 佐藤安弘 田中弘)

物 件 目 録

電話加入権

一、電話番号 砧電報電話局(局番四一六)

二、一一〇番乃至二、一一九番

〇、一〇五番乃至〇、一〇八番

加入名義人 日活株式会社

設置場所 調布市下布田二、五〇〇番地(日活撮影所)

一、電話番号 砧電報電話局(局番四一六)

二、一四五番乃至二、一四七番

加入名義人 株式会社丸源製鋸所

設置場所 調布市国領町四三一番地

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